・・・結局、里のほうにしても、また私たちにしても、どうもこの疎開という事は、双方で痩せるくらいに気骨の折れるものだという事に帰着するようである。しかし、それでも私たちの場合は、疎開人として最も具合いのよかったほうらしいのだから、他の疎開人の身の上・・・ 太宰治 「薄明」
・・・の膝が前へせり出していてはまずいし雨のふる時などはなさけない金を出して馬車などを驕らねばならないし、それはそれは気骨が折れる、金がいる、時間が費える、真平だが仕方がない、たまにはこんな酔興な貴女があるんだから行かなければ義理がわるい、困った・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・これは彼の気骨を物語っている。その反面に、明治が、その現実において、どんなにまで封建的であり、身分の観念と結びついた官僚主義が横行していたかを語っているのである。 市民社会を土台としてそこから近代化した日本ではなかった、という一つの事実・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
一、文学者ではスタンダールというひとをこの頃おもしろく思って居ります。スタンダールは一八三〇年代のフランスで実に珍しい気骨のある多面的な人であったようです。「赤と黒」を、恋愛を主題とした小説と云われているのは一面にすぎませ・・・ 宮本百合子 「でんきアンケート」
・・・ク的傾向を強固にされながら、而も一方においてはその金のやりくりともぎ取りのため、壮年に達したバルザックが益々創作に身をうちこみ、益々刻薄な社会の現実に突き入ってダニのような高利貸、卑屈傲慢な大小官吏、気骨なきジャーナリスト、企業家等と愈々猛・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・のような作品もありますけれども、日記を読むとなかなか気骨のある婦人でした。御承知の通り大変に困難な日常生活をして、駄菓子屋までやるような生活をしていましたから、歌のお師匠さんの所へ出入りしても半分事務のようなことを手伝って教えて貰っています・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫