・・・冷たい気高い様な様子でねて居る処女の体の囲りにはいろんな下らない、いかにも人間の出しそうな音がみちて居る。部屋のすぐ後には馬鹿ばやしの舞台が立って居る。たるんだブロブロ声で笑いながら紙のあおる音の様なテカテカテカをやって居る男や、万燈をかつ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・詩人は森の中に育った児のように、たまに村から出た女達のするようにその気高い姿を見あげ見下しました。けれ共さとい美くしい詩人の胸には若い人の心にふさわしい思い出がわき上りました。きっとそうだそうにちがいないと小さい腕を胸に組んで「有難う、雪の・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・胸といわず裾といわず、歓びを告げる平和な焔色にきらめき渡る頂に、澄んだ彼女の碧い二つの瞳ばかりが、気高い天の守りのように見えるのでした。 この着物を身につけさえすると、王女はたといどんな泣き度いことがあっても、それを忘れることが出来まし・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・形が地味で、心の気高い、本も少しは読むという娘はないかと思ってみても、あいにくそういう向きの女子は一人もない。どれもどれも平凡きわまった女子ばかりである。 あちこち迷った末に、翁の選択はとうとう手近い川添の娘に落ちた。川添家は同じ清武村・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・あの赤坊は奇麗かは知りませんが、アノ従四位様のお家筋に坊の気高い器量に及ぶ者は一人もありません。とにかく坊はソックリそのまま、わたしの心には、あの赤んぼうよりか、だれよりか可愛くッてならないのだよ」と仰有って、少しだまっていらっしゃると思っ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫