・・・夜になると下流の発電所への水の供給が増すせいであろう、池の水位が目に立つほど減って、浅瀬が露出した干潟になる。盆踊りを見ての帰りに池面のやみをすかして見るとこの干潟の上に寂寞とうずくまっていることもあり、何かしら落ち着かぬように首を動かして・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ でもあの水位注味(深いんならよござんすよ。「ほんとですねえ、 自分でもよくそう思います。 でも性質だから仕方がありません。 だから『奇麗だ!』と思ったっていいかげんまで行けば立ち消えがして仕舞うし何かに刺撃されてもいい・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 鉢の土は袂屑のような塵に掩われているが、その青々とした色を見れば、無情な主人も折々水位遣らずにはいられない。これは目を娯ましめようとする Egoismus であろうか。それとも私なしに外物を愛する Altruismus であろうか。人・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・巨椋池はその後干拓工事によって水位を何尺か下げた。前に蓮の花の咲いていた場所のうちで水田に化したところも少なくないであろう。それに伴なって蓮の栽培がどういう影響を受けたかも私は知らない。もし蓮見を希望せられる方があったら、現状を問い合わせて・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫