・・・たちまち私の傍を近々と横ぎって、左右に雪の白泡を、ざっと蹴立てて、あたかも水雷艇の荒浪を切るがごとく猛然として進みます。 あと、ものの一町ばかりは、真白な一条の路が開けました。――雪の渦が十オばかりぐるぐると続いて行く。…… これを・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・ 自分の入って来たのを見て、いきなり一人の水兵が水雷長万歳と叫ぶと、そこらにいた者一斉に立って自分を取り巻き、かの大杯を指しつけた。自分はその一二を受けながら、シナの水兵は今時分定めて旅順や威海衛で大へこみにへこんでいるだろう、一つ彼奴・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・ネーヴァル・アンニュアルなどを取り寄せていろいろな軍艦の型を覚えたり、水雷艇や魚形水雷の構造を研究したりしていたのであるが、一方ではどうにも製図というものにさっぱり興味がないのと、また一方では田丸先生の物理の講義を聞き、実験を見せられたりし・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・この男バナナと隠元豆を入れたる提籠を携えたるが領しるしの水雷亭とは珍しきと見ておればやがてベンチの隅に倒れてねてしまいける。富米野と云う男熊本にて見知りたるも来れり。同席なりし東も来り野並も来る。 こゝへ新に入り来りし二人連れはいずれ新・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・われわれが験潮器を浜に据えて、鉛管を海中へ引っぱっていたので、何か水雷でもしかけているという噂をされたそうである。 この浜の便所はおそらく世界一の広々とした明るい便所で、二人並んで、ゆるゆる談じながら用を達すことが出来るしかけである。そ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ それにしても同じ有害な環境におかれた三尾のうちで二つは死んで一つは生き残るから妙である。 水雷艇「友鶴」の覆没の悲惨事を思い出した。 あれにもやはり人間の科学知識の欠乏が原因の一つになっていたという話である。 忘れても二度・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
出典:青空文庫