・・・自然主義者はこれを永久の真理の如くにいいなして吾人生活の全面に渉って強いんとしつつある。自然主義者にして今少し手強く、また今少し根気よく猛進したなら、自ら覆るの未来を早めつつある事に気がつくだろう。人生の全局面を蔽う大輪廓を描いて、未来をそ・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・翻って考えて見ると、子の死を悲む余も遠からず同じ運命に服従せねばならぬ、悲むものも悲まれるものも同じ青山の土塊と化して、ただ松風虫鳴のあるあり、いずれを先、いずれを後とも、分け難いのが人生の常である。永久なる時の上から考えて見れば、何だか滑・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・ それからまた眠りに落ち、公園のベンチの上でそのまま永久に死んでしまった。丁度昔、彼が玄武門で戦争したり、夢の中で賭博をしたりした、憐れな、見すぼらしい日傭人の支那傭兵と同じように、そっくりの様子をして。・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・そして永久に休息しようとしている。この哀れな私の同胞に対して、今まで此室に入って来た者共が、どんな残忍なことをしたか、どんな陋劣な恥ずべき行をしたか、それを聞こうとした。そしてそれ等の振舞が呪わるべきであることを語って、私は自分の善良なる性・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・百千年来蛮勇狼藉の遺風に籠絡せられて、僅に外面の平穏を装うと雖も、蛮風断じて永久の道に非ず。我輩は其所謂女子敗徳の由て来る所の原因を明にして、文明男女の注意を促さんと欲する者なり。又初めに五疾の第五は智恵浅きことなりと記して、末文に至り中に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・わたくしがあなたを思うほど、あなたがわたくしを思って下さるまでは、わたくしの心は永久に落ち着くことは出来まいと云うのでございます。わたくしを愛して下さることがあなたに出来るだろうかと云うのでございます。 最初にあなたに上げた手紙に書き添・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・その島の平らないただきに、立派な眼もさめるような、白い十字架がたって、それはもう凍った北極の雲で鋳たといったらいいか、すきっとした金いろの円光をいただいて、しずかに永久に立っているのでした。「ハルレヤ、ハルレヤ。」前からもうしろからも声・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ロシア文学の古典の中でも、いま日本に流行しているのは、プーシュキンやゴーゴリの作品でなく、その文学の世界が、永久の分裂で血を流しているドストイェフスキーであるという事情には、いまの日本のこの社会的な心理がかかわっている。解決のない人間の間の・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・恋人との婚姻もこのまま永久に引き延ばしていたかった。そして、安次を最も残忍な方法で放逐して了ったならば、彼は秋三の嘲笑を一瞬にして見返すことが出来るように思われた。七 安次は股引の紐を結びながら裏口へ出て来ると、水溜の傍の台・・・ 横光利一 「南北」
・・・そうしてそれが、たとい時に彼を宗教へ向かわせるにしても、結局宗教芸術に現われた、「永久味」の味到に落ちつかせる。彼においては美の享楽が救いである。彼の求める「土台」は美において、最も深い「美」において、得られるのである。彼からこの「享楽」を・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫