・・・ 日蓮の出家求道の発足は認識への要求であった。彼の胸中にわだかまる疑問を解くにたる明らかなる知恵がほしかったのだ。それでは彼の胸裡の疑団とはどんなものであったか。 第一には何故正しく、名分あるものが落魄して、不義にして、名正しか・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・それ故信仰の女性というのは、普通の場合、信仰の求道者の女性という意味であって、またそれでいいのである。しかし初めから信仰というものを古臭いなどと侮って、求める気がないのでは妙智のひらける縁がない。 それが独りよがりの傲慢になってしまうか・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・また花山法皇は御年十八歳のとき最愛の女御弘徽殿の死にあわれ、青春失恋の深き傷みより翌年出家せられ、花山寺にて終生堅固な仏教求道者として過ごさせられた。実に西国巡礼の最初の御方である。また最近の支那事変で某陸軍大尉の夫人が戦死した夫の跡を追い・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・だのという題でもってあつかわれているから、われら求道の人士をこのように深く惑わす事になるのである。私がもし、あの話を修身の教科書に採用するとしたなら、題を「孤独」とするであろう。 私は、いまこそあの三氏の、あの時の孤独感を知った、と思っ・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・と言ったというが、芭蕉の数奇をきわめた体験と誠をせめる忠実な求道心と物にすがらずして取り入れる余裕ある自由の心とはまさしくこの三つのものを具備した点で心敬の理想を如実に実現したものである。世情を究め物情に徹せずしていたずらに十七字をもてあそ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・彼はその不幸のそこから、人生に徹し得ると云う求道的の歓によって光明を得て来た。 今度の恋愛は、彼の大きい一生上の一つの引潮に際し、不幸は以前に倍して大きいとなれば、常識の云う最大の不幸、「死」をとおして光明を感じたことを、認めない訳には・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・という気持、あの「人を救うための求道ではない、真理の為めに真理を究める求道」であるという心境、それを私は求めたいと思います。私の目下はあの地虫が春が来てひとりでに殼を破って地上に抜け出る、あの漸進的な自然の外脱を得たいと思います。 至純・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・私は、心をこめ、求道者が師を礼拝するような心持で頭を下げた。そして、次第に熱中し、興にのって、講義して行かれる心理学概論を筆記する。 先生の教授ぶりは、熱があり、インテレクチュアルで、真摯なものであった。 黒板に何か書いたチョークを・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・T氏もまた弱い所の多い求道者であることを、与うるとともに受けなければならない乏しい愛の蔵であることを、私たちはあまりに知らなさ過ぎた。私はT氏に対して済まないという思いを禁ずることができない。 わずかに三四度逢ったT氏に対してさえそうで・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・一人の求道者の人間知と内的経路との告白を聞くのである。九 利己主義と正義、及びこの両者の争いは先生が最も力を入れて取り扱った問題であった。『猫』は先生の全創作中最も露骨に情熱を現わしたものである。それだけにまた濃厚な諧謔・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫