・・・それが金持ちになったら汗水垂らして畑をするものなどは一人もいなくなるだろう」「それにしてもあれはあんまりひどすぎます」「お前は百歩をもって五十歩を笑っとるんだ」「しかし北海道にだって小作人に対してずっといい分割りを与えているとこ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 田舎の人達は、どんなにして働いたか、西瓜を作り、南瓜を作り、茄子を作り、芋を作るのに、どんなに汗水を滴らして働いたか。 また、林檎を栽培し、蜜柑、梨子、柿を完全に成熟さして、それを摘むまでに、どれ程の労力を費したか。彼等は、この辛・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・ 合い憎のことには、私の場合、犬馬の労もなにも、興ざめの言葉で恐縮であるが、人糞の労、汗水流して、やっと書き上げた二百なにがしの頁であった。それも、決して独力で、とは言わない。数十人の智慧ある先賢に手をとられ、ほとんど、いろはから教えた・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・それに気附かず、作者は、汗水流し、妻子を犠牲にしてまで、そのような読者たちに奉仕しているのではあるまいか、と思えば、泣くにも泣けないほどの残念無念の情が胸にこみ上げて来るのだ。「とにかく、その雑誌は、ひっこめてくれ。ひっこめないと、ぶん・・・ 太宰治 「眉山」
・・・一日汗水たらして働いた後にのみ浴後の涼味の真諦が味わわれ、義理人情で苦しんだ人にのみ自由の涼風が訪れるのである。 涼味の話がつい暑苦しくなった。 きょう、偶然ことし流行の染織品の展覧会というのをのぞいた。近代の夏の衣装の染織には、ど・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・春から汗水たらすて、ようやぐ物にすたの、二百刈りづもの、まるっきり枯らしてしまったな。」農民六「ほんとにひで野郎だ。」農民二「全体、はじめの話がら、ひょんただたもな。じゃ、うな、医者だなんて、人がら銭まで取ってで、人の稲枯らして済む・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・売れるからますます多く作り、安いからますます読んで、自分たちの汗水たらしてとった金を払って自分たちをますます狭い低い隷属的な生活へ追い込む文化の影響を受けて行くという状態にあるのである。 読者は今度国定教科書の插絵が大変かわったことに気・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・工場ではどうかというと、男と同じに汗水たらして働くのに、賃銀は半分ぐらいしか取れぬ。子供を腹にかかえても、休めば工場をクビにされるから無理押しに働きに出る。そういう勤労婦人が仕事台の下へぶっ倒れて赤ん坊を生み落すのは昔のロシアでは珍らしい出・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ バルザック自身が、自分の文体をもてあまし、汗水たらしてそれと格闘した有様は、すべての伝記者によって描かれ、まざまざと目にも浮ぶばかりであるが、バルザックは文学作品における表現というものに対しては或る識見を抱いていた。「文章論に通暁・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫