・・・これは、池袋の大姉さんの御推薦でした。もうひとりのお方は、父の会社に勤めて居られる、三十歳ちかくの技師でした。五年も前の事ですから、記憶もはっきり致しませんが、なんでも、大きい家の総領で、人物も、しっかりしているとやら聞きました。父のお気に・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・という綴方は、池袋の叔母さんが、こんど練馬の春日町へお引越しになって、庭も広いし、是非いちど遊びにいらっしゃいと言われて私は、六月の第一日曜に、駒込駅から省線に乗って、池袋駅で東上線に乗り換え、練馬駅で下車しましたが、見渡す限り畑ばかりで、・・・ 太宰治 「千代女」
・・・ 十一月十日、木曜。池袋から乗り換えて東上線の成増駅まで行った。途中の景色が私には非常に気にいった。見渡す限り平坦なようであるが、全体が海抜幾メートルかの高台になっている事は、ところどころにくぼんだ谷があるので始めてわかる。そういう・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ 池袋で、長い列につながって省線の切符を買い、乗りかえた。思いがけず、一つ空席があった。ひろ子は、無理に重吉をかけさせた。「今は、あなたの方がくたびれやすいのよ」 揉まれた重吉の顔に疲労があらわれている。「腹がすいて来たね」・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そして、家賃として余り珍しい廉価が記入されていたので、そこを参観した経済専門のある婦人が、東京にこんな家賃の家が実際にありましたろうかと質問したらば、それはあることは在ったのだそうだ。池袋かどこかの隅にたった一軒そういう家があった。それで雀・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫