・・・(欠伸何と云う沈滞しきった有様だ。又この間のように面白いことでも起って呉れないかな。目が醒めるぜ。ミーダ 人間のアーリアン族を大喧嘩させたことか?ヴィンダー うむ。思っても溜飲が下る。目覚ましかったじゃあないか。俺達の仕事で彼処まで・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・生活そのものに生新溌剌な意欲が漲って、文学でも新しい境地の開拓が自然に人々を誘っているような時代、批評の精神も沈滞していよう筈はないのである。 時代によって、人間の善意の表現も極々の転形を示すのだが、今日私たち日本の文学の成長の可能は、・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・この少壮貴族・将校を中心とする叛乱の計画は一貴族の卑劣な裏切りによって悲劇的失敗をとげ、その後一時沈滞した解放運動は、四〇年代になるとモスクワ大学の研究会となって、再び若々しく甦って来た。ゲルツェン会とスタンケウィッチ会とがそれであった。ツ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・素人の考えとして私は、洋画をかく婦人たちが、洋画の本質と自分の日常生活とにある筈の進歩性というものに無条件でたよりすぎている為に、いつしか反対の沈滞に陥りかかっているのではないかと考えた。 日本の社会では確に洋画を女にならわせる親は進歩・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・年来生活の活々した流れや笑を失った家と庭にはどこやらあらそえない沈滞が不健康にくろずみ澱んでいる。そこへただ一点、精気を凝して花弁としたような熾んな牡丹の風情は、石川の心にさえ一種の驚きと感嘆をまき起した。「――見事に咲きましたな、旦那・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ 何故なら、性格の最も生産的な時期といえる成年、中年の時代が、時には余り沈滞した光彩ないものとして一般に感じられることが多くあり過ぎますから。〔一九二三年一月〕 宮本百合子 「われを省みる」
・・・グレシア正教の寺院を沈滞のままに委せて、上辺を真綿にくるむようにして、そっとして置いて、黔首を愚にするとでも云いたい政治をしている。その愚にせられた黔首が少しでも目を醒ますと、極端な無政府主義者になる。だからツアアルは平服を著た警察官が垣を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・従って彼らの表現欲は内生が沈滞し、平凡をきわめているに比べて、滑稽なほど不釣合に烈しい。 表現を迫る内生とその表現の方法との間にかくのごとき虚偽や不釣合があり得るとすれば、私が芸術創作について言った事は一般には通じない事になる。すなわち・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫