・・・ 是れ太陽の運命である、地球及び総ての遊星の運命である、況して地球に生息する一切の有機体をや、細は細菌より大は大象に至るまでの運命である、これ天文・地質・生物の諸科学が吾等に教ゆる所である、吾等人間惟り此鈎束を免るることが出来よう歟。・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・それが暗い吹雪の夜は、況して荒涼たる景色であった。 二人の子供は、コムプレッサー、鍛冶場、変電所、見張り、修繕工場、などを見て歩いたが、その親たちは見当らなかった。 深い谷底のような、掘鑿に四つの小さい眼が注がれた。坑夫の子供ではあ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・其時の混雑と云ったら、とても私の口では云えない、況して私は若子さんと一緒に夢中になって、御兄さんの乗って居らッしゃる列車を探したんですもの、人に揉れ揉れて押除けられたり、突飛ばされたりしながら。下 若子さんの御兄さんに御目に・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・単に夫なればとて訳けも分らぬ無法の事を下知せられて之に盲従するは妻たる者の道に非ず。況して其夫が立腹癇癪などを起して乱暴するときに於てをや。妻も一処に怒りて争うは宜しからず、一時発作の病と視做し一時これを慰めて後に大に戒しむるは止むを得ざる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・男子の文章既に斯の如し。況して女子の談論に於てをや。仮初にも過激粗暴なる可らず。其顔色を和らげ其口調を緩かにし、要は唯条理を明にして丁寧反覆、思う所を述ぶるに在るのみ。即ち女子の品位を維持するの道にして、大丈夫も之に接して遜る所なきを得ず。・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・誰れの棺でも土の穴の中へ落し込む時には極めていやな感じがするものである。況して其棺の中に自分の死骸が這入っておると考えると、何ともいえぬ厭な感じがする。寐棺の中に自分が仰向けになっておるとして考えて見玉え、棺はゴリゴリゴリドンと下に落ちる。・・・ 正岡子規 「死後」
・・・一生続ける人もあるし、途中で止めてしまう人もあるけれど。況してこの戦争では夫を或は子供を戦線に送った人々は皆手紙を書いています。あれは一つの文学的な歩みからいうと日本人というものがものを書くということについての大きな訓練だったと見ることがで・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・今日この点を改めてとり上げてみるならば、第一日本の総人口の九割迄の人々は、一生を働き通して、しかも伝えるものとては借金以外に極く僅かの財産しか持たず、況してそれを何人かの子供に平等に分配するという程の富を蓄積し得ない人民の経済生活である。従・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫