・・・――山の草、朽樹などにこそ、あるべき茸が、人の住う屋敷に、所嫌わず生出づるを忌み悩み、ここに、法力の験なる山伏に、祈祷を頼もうと、橋がかりに向って呼掛けた。これに応じて、山伏が、まず揚幕の裡にて謡ったのである。が、鷺玄庵と聞いただけでも、思・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・源氏物語は如何にまじないが一般的であったかを語っており、法力が尊いものであるかを語っている。この時代の人は大概現世祈祷を事とする堕落僧の言を無批判に頂戴し、将門が乱を起しても護摩を焚いて祈り伏せるつもりでいた位であるし、感情の絃は蜘蛛の糸ほ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・仙術の法力を失った太郎は、しもぶくれの顔に口鬚をたらりと生やしたままで蔵から出て来た。 あいた口のふさがらずにいる両親へ一ぶしじゅうの訳をあかし、ようやく納得させてその口を閉じさせた。このようなあさましい姿では所詮、村にも居られませぬ。・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・そして次第に法力を得て、やがてはさきにも申した如く、火の中に入れどもその毛一つも傷つかず、水に入れどもその羽一つぬれぬという、大力の菩薩となられたじゃ。今このご文は、この大菩薩が、悪業のわれらをあわれみて、救護の道をば説かしゃれた。その始め・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫