・・・そして、波間に、赤い船が見えると、「キイ、キイ……。」といって、喜んで鳴いたのです。 早く見つけたつばめは、それをまだ知らない友だちに告げるために、空高く舞い上がって、紺色の美しい翼をひるがえしながら、「赤い船がきましたよ。さあ・・・ 小川未明 「赤い船とつばめ」
・・・ このとき、二郎は、ふと沖の方を見ますと、そこにはわき出たように、赤い船が青い海の波間に浮かんでいたのであります。 二郎は、お伽話にでもあるように、美しい船だと思いました。 そして、どこからこんな船が、このさびしい港にやってきた・・・ 小川未明 「赤い船のお客」
・・・ 遥か、彼方には、海岸の小高い山にある神社の燈火がちらちらと波間に見えていました。ある夜、女の人魚は、子供を産み落すために冷たい暗い波の間を泳いで、陸の方に向って近づいて来ました。二 海岸に小さな町がありました。町にはい・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・ はるか、かなたには、海岸の小高い山にある、神社の燈火がちらちらと波間に見えていました。ある夜、女の人魚は、子供を産み落とすために、冷たい、暗い波の間を泳いで、陸の方に向かって近づいてきました。二 海岸に、小さな町があり・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・船の影は、黒く、ちょうど木の葉を浮かべたように、濃く青い波間に見えたり、隠れたりします。そして、真っ赤に、入り日の名残の地平線を染めていますのが、しだいしだいに、波に洗われるように、うすれていったのでありました。 おじいさんは、ほとんど・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・そのとき海の中に音楽が響いて、一個の大きなかめが波間に浮き出て、海の中の子供を迎えにきました。「じゃ失敬! お達者で、また来年あおう。さようなら。さようなら。」といって、そのかめの背中に乗って、空色の着物を着た子供は、波の間に見えな・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・あるときは風のために思わぬ方向へ船が吹き流され、あるときは波に揺られて危うく命を助かり、幾月も幾月も海の上に漂っていましたが、ついにある日のこと、はるかの波間に島が見えたので大いに喜び、心を励ましました。 その家来は島に上がりますと、思・・・ 小川未明 「不死の薬」
・・・娘らは手に持っている赤い紙に小さな石を包んで、それを波間めがけて投げました。やがて赤い紙は大海原の波の間に沈んでしまって、見えなくなったのであります。 三人は家へ帰って、やがてその夜は床についてねむりました。そうして、明くる日の朝、目を・・・ 小川未明 「夕焼け物語」
・・・ 波間 東海道線を西の方から乗って来て、食堂などにいると、この頃の空気が声高な雑談の端々から濛々とあたりを罩めている。儲けたり、儲けそこなったりの話である。 或るカイタイ会社が北海道のどこかで暗礁にのりあげ・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・私たちが自分たちの世代を歴史の水深計でつかみ、その上に漂いその間に棲息するだけでなくて、波間の底まで触れて描いて行けたらどんなに面白いだろう。小説は話ではなくて作家にとってはもう一度その世界を生きかえそうとする情熱であることを忘られてはなら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫