・・・と上村もまた真面目で註解を加えた。「それから道行は抜にして、ともかく無事に北海道は札幌へ着いた、馬鈴薯の本場へ着いた。そして苦もなく十万坪の土地が手に入った。サアこれからだ、所謂る額に汗するのはこれからだというんで直に着手したねエ。尤も・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・それをいいかげんなほんの一面的なやぶにらみの注解をつけて片付けてしまうのではせっかくのおとぎ話も全く台無しになってしまう。 おとぎ話はおとぎ話でよいのである。 おとぎ話は物理学の教科書と同じく石が上から下へ落ちるという事実を教える。・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・理科の教科書ならばとにかく多少でも文学的な作品を児童に読ませるのに、それほど分析的に煩雑な註解を加えるのは却って児童のために不利益ではないかと思うというようなことを書き送ったような気がする。これは後で悪かったと思った。 以上挙げたような・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・――そんな得意談はどうでも善いとして、この国の女ことに婆さんとくると、いわゆる老婆親切と云う訳かも知れんが、自分の使う英語に頼みもせぬ註解を加えたり、この字は分りますかなどという事がたくさんある。この間さる処へ呼ばれてそこの奥さんと談しをし・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・の如きは、片手に註解本をもつて読まない限り、僕等の如き無識低能の読書人には、到底その深遠な含蓄を理解し得ない。「ツァラトストラ」の初版が、僅かにただ三部しか売れなかつたといふ歴史は、この書物の出版当時に於て、これを理解し得る人が、全独逸に三・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ブルジョア恋愛論の空想性、偽瞞性で装飾しながら、ロマンティックなような形容詞で、かいていることといえば、肉体主義の文学の生理的註解のようなものです。これまでに科学的な性の知識がちっとも与えられていないのに、今日は十六歳の少女でも読む雑誌に、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・プロレタリア文学の分野にあった人々の或る部分は、新たなリアリズムの便宜的註解に拠って、従来のプロレタリア文学運動と対立し、その頃流行った政治的偏向という言葉で批判しはじめたのである。 この時期に林房雄氏が出獄した。プロレタリア文学の仕事・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・研究などは、細かい部分についてはある註解がいると思われるところもあるが、以上の問題にも連関して一読の価値があると思われた。『文化集団』では又、上述の二つの論文との対比によって、われわれに教えるところのある小松清氏の「ソ作家大会と新個人主・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ ビリューコフは、トルストイを自分の色どりで損わないための努力で、それらの密林は密林のままにしているし、或るところどころで控えめに試みている註解の文章では、ビリューコフという人にそこまでを望むのは無理であるということもわかって来る。セヴ・・・ 宮本百合子 「『トルストーイ伝』」
・・・この雑誌には吉田絃二郎氏の氏らしい「奥の細道」註解が連載されていた。ここにあげた中の幾つかの句は「奥の細道」におさめられているものだが、芭蕉という芸術家が、日本の美感の一人の選手だから、教養の問題として、それがわからないというのはみっともな・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫