・・・今後私の生活がいかように変わろうとも、私は結局在来の支配階級者の所産であるに相違ないことは、黒人種がいくら石鹸で洗い立てられても、黒人種たるを失わないのと同様であるだろう。したがって私の仕事は第四階級者以外の人々に訴える仕事として始終するほ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・しかも舟は上だな檜で洗い立ててありますれば、清潔この上なしです。しかも涼しい風のすいすい流れる海上に、片苫を切った舟なんぞ、遠くから見ると余所目から見ても如何にも涼しいものです。青い空の中へ浮上ったように広と潮が張っているその上に、風のつき・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・君が正装をしているのに私はこんな服でと先生が最前云われた時、正装の二字を痛み入るばかりであったが、なるほど洗い立ての白いものが手と首に着いているのが正装なら、余の方が先生よりもよほど正装であった。 余は先生に一人で淋しくはありませんかと・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・それを強いて、烟脂を舐めた蛙が膓をさらけだして洗うように洗い立てをして見たくもない。今私がこの鉢に水を掛けるように、物に手を出せば弥次馬と云う。手を引き込めておれば、独善と云う。残酷と云う。冷澹と云う。それは人の口である。人の口を顧みている・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫