・・・――この乱闘現場の情景を目撃してゐた一人、大和農産工業津田氏は重傷に屈せず検挙に挺身した同署員の奮闘ぶりを次のやうに語つた。――場所は梅田新道の電車道から少し入つた裏通りでした。一人の私服警官が粉煙草販売者を引致してゆく途中、小路か・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・元祖本家黒焼屋の津田黒焼舗と一切黒焼屋の高津黒焼惣本家鳥屋市兵衛本舗の二軒が隣合せに並んでいて、どちらが元祖かちょっとわからぬが、とにかくどちらもいもりをはじめとして、虎足、縞蛇、ばい、蠑螺、山蟹、猪肝、蝉脱皮、泥亀頭、手、牛歯、蓮根、茄子・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 津田青楓。 「黒きマント」は脚から足のぐあいが少し変である。そのために一種サディズムのにおいのあるエロティックな深刻味があって近代ドイツ派の好きな人には喜ばれるかもしれないが、甘みのすきな私にはこれよりももう一つの「裸婦」のほうが美し・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・ この稿を起したもう一つの理由は、友人としての津田君の隠れた芸術をいくぶんでも世間に紹介したいという私の動機からである。これも一応最初に断っておいた方がよいかと思う。 津田君は先達て催した作画展覧会の目録の序で自白しているように「技・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ そう云えば、すぐ隣りにある山下氏の絵にもやはり東洋人が顔を出している。雪景色の絵などはどこか広重の版画の或るものと共通な趣を出している。 津田君の小品ではこの東洋人がむき出しに顔を出している訳である。 坂本氏の絵がかなり目・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・ 津田氏の日本画は一流のものであるが、今年の洋画はただの一点で、それがあまりに投げやりである。 鍋井氏の絵は少し変ったようである。こういう絵も自分はわりに好きな方ではあるが、ただ変るところまで変る途中にあるような気がした。来・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・あの日は津田君の「出雲崎の女」が問題になっていて、喫茶室で同君からそのゆきさつの物語を聞いているうちに震り出したのであった。その津田君は今年はもう二科には居なくなったのである。 回顧室に這入るとI君に会った。「どうも蒸暑い」というとI君・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・一方では憲政会熊本支部にもひそかに出入している男であるが、小野、津田、三吉の労働幹部のトリオがしっかりしているうちは、まだいうことをきいていた。「きみィ、応援するのやろ?」 三吉が黙っていると、「ええわしの方も、ひとつたのむゾ」・・・ 徳永直 「白い道」
「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋灯の穂を細めながら尋ねた。 津田君がこう云った時、余ははち切れて膝頭の出そうなズボンの上で、相馬焼の茶碗の糸底を三本指でぐるぐる廻しながら考えた。なるほど珍ら・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 政子さんは、少し耳朶を赤くしました。「それは遠慮だわ政子さん、一緒のお家にいて知らないなんて、そんな事は無くってよ。あの方は、小学校を優等でお出になったんですってね、そう? 津田さんが答辞をお読みに成ったって云っていらしったけれども、・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
出典:青空文庫