・・・もし強いて止めさせれば、丁度水分を失った植物か何かのように、先生の旺盛な活力も即座に萎微してしまうのであろう。だから先生は夜毎に英語を教えると云うその興味に促されて、わざわざ独りこのカッフェへ一杯の珈琲を啜りに来る。勿論それはあの給仕頭など・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・その自壊作用の後に、活力ある生活を将来するものは、もとよりアリストクラシーでもなければ、富豪階級でもありえぬ。これらの階級はブルジョアジー以前に勢力をたくましゅうした過去の所産であって、それが来たるべき生活の上に復帰しようとは、誰しも考えぬ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ これがこの動物の活力であり、智慧であり、精霊であり、一切であることを私は信じて疑わないのである。 ある日私は奇妙な夢を見た。 X――という女の人の私室である。この女の人は平常可愛い猫を飼っていて、私が行くと、抱いていた胸から、いつ・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・伸びて行く活力だけです。若い女のひとたちも、手に旗を持って労働歌を歌い、私は胸が一ぱいになり、涙が出ました。ああ、日本が戦争に負けて、よかったのだと思いました。生れてはじめて、真の自由というものの姿を見た、と思いました。もしこれが、政治運動・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・ こういう飛びぬけた頭脳を持っていて、そして比較的短い年月の間にこれだけの仕事を仕遂げるだけの活力を持っている人間の、「人」としての生立ちや、日常生活や、環境は多くの人の知りたいと思うところであろう。 それで私は有り合せの手近な材料・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・の巻頭に現われるあの平野とその上を静かに流れる雲の影のシーンには、言い知らぬ荒涼の趣があり慰めのない憂愁を含んでいるが、ここでは反対に旺盛な活力の暗示がある。そうしてそのあとに豊富な果樹の収穫の山の中に死んで行く「過去」の老翁の微笑が現われ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・隙間なく密生しても活力を失わないという特徴があるために垣根の適当な素材として選ばれたのであろう。あれは何月頃であろうか。とにかくうすら寒い時候に可愛らしい筍をにょきにょきと簇生させる。引抜くと、きゅうっきゅうっと小気味の好い音を出す。軟らか・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・余らはこれと入れちがってはいる。活力の満ちた、しめっぽい熱帯の空気が鼻のあなから脳を襲う。椰子の木や琉球の芭蕉などが、今少し延びたら、この屋根をどうするつもりだろうといつも思うのであるが、きょうもそう思う。ハワイという国には肺病が皆無だとだ・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
・・・有機系とはなんの交渉もないものが繁殖し始めるとその有機系の調和が破壊され、その活力が阻害され結局死滅する、それと同時にその死滅を促成した反逆者の一群も死滅することは当然である。 国家という有機体にも時々癌腫が発生する。ひどくなると国家を・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・何かしら強い活力で幹から吹き出しているように見えた威勢のよかった葉がきわめてわずかな圧力にも堪えず、わけもなく落ちるのが不思議なようにも思われた。このようにして根もとに近いほうから順序正しくだんだんに脱落して行くのであった。 S君がまた・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
出典:青空文庫