・・・畑の上は急に活気だった。市街地にも種物商や肥料商が入込んで、たった一軒の曖昧屋からは夜ごとに三味線の遠音が響くようになった。 仁右衛門は逞しい馬に、磨ぎすましたプラオをつけて、畑におりたった。耡き起される土壌は適度の湿気をもって、裏返る・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・こう思って、きょうの処刑の状況、その時の感じを、跡でどんなにか目に見るように、面白く活気のあるように、人に話して聞かせることが出来るだろうということも考えて見た。 同時にフレンチは興味を持って、向側の美しい娘を見ている。その容色がある男・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・ 省作は足腰の疲れも、すっかり忘れてしまい、活気を全身にたたえて、皆の働いてる表へ出て来た。 二「省作お前は鎌をとぐんだ。朝前のうちに四挺だけといでしまっておかねじゃなんねい。さっきあんなに呼ばったに、どこにいた・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・動かない漁舟、漕ぐ手も見ゆる帰り舟、それらが皆活気を帯びてきた。山の眺めはとにかく、海の景色は晴れんけりゃ駄目ですなアなどと話合う。話はいつか東京話になる。お繁の奴は東京の話というと元気が別だ。僕等もう東京などちっとも恋しくない。兄がそうい・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・ 省作も今日は例の穏やかな顔に活気がみちてるのだ。二つ三つ兄と杯を交換して、曇りのない笑いを湛えている。兄は省作の顔を見つめていたが、突然、「省作、お前はな、おとよさんと一緒になると決心してしまえ」 省作も兄の口からこの意外な言・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ヒュネカのごとき活気盛んな壮年者もあれば、ブラウニング夫人のごとき才気当るべからざる婦人もいる。いずれも皆外国または内国の有名、無名の学者、詩人、議論家、創作家などである。そのいろんな人々が、また、その言うところ、論ずるところの類似点を求め・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 生まれ変わるという信仰が、どれほど味気ない生活に活気をつけたかしれません。「死」ということがこんなに、このときほど意義のあることに思われたかわかりません。「死なずに幸福の島へ渡れないものだろうか。」 多くの人々の中には、身を海・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・見ると、なんとなく活気がない。また音ひとつ聞こえてこない寂然とした町であります。また建物といっては、いずれも古びていて、壊れたところも修繕するではなく、烟ひとつ上がっているのが見えません。それは工場などがひとつもないからでありました。 ・・・ 小川未明 「眠い町」
・・・目は瞬きもやんだように、ひたと両の瞳を据えたまま、炭火のだんだん灰になるのを見つめているうちに、顔は火鉢の活気に熱ってか、ポッと赤味を潮して涙も乾く。「いよいよむずかしいんだとしたら、私……」とまた同じ言を呟いた。帯の間から前の端書を取・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・向い側の五六軒先にある果物屋が、赤や黄や緑の色が咲きこぼれていて、活気を見せた。客の出入りも多かった。果物屋はええ商売やとふと思うと、もういても立ってもいられず、柳吉が浄瑠璃の稽古から帰って来ると、早速「果物屋をやれへんか」柳吉は乗気になら・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫