・・・これを概するに、上士の風は正雅にして迂闊、下士の風は俚賤にして活溌なる者というべし。その風俗を異にするの証は、言語のなまりまでも相同じからざるものあり。今、旧中津藩地士農商の言語なまりの一、二を示すこと左のごとし。 上・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・積極的美とはその意匠の壮大、雄渾、勁健、艶麗、活溌、奇警なるものをいい、消極的美とはその意匠の古雅、幽玄、悲惨、沈静、平易なるものをいう。概して言えば東洋の美術文学は消極的美に傾き、西洋の美術文学は積極的美に傾く。もし時代をもって言えば国の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・かつ所作の活溌にして生気あるはこの遊技の特色なり、観者をして覚えず喝采せしむる事多し。但しこの遊びは遊技者に取りても傍観者に取りても多少の危険を免れず。傍観者は攫者の左右または後方にあるを好しとす。 ベースボールいまだかつて訳語あら・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・ 蟻は活発に答えます。「大すきです。誰だってあの人をきらいなものはありません」「けれどもあの花はまっ黒だよ」「いいえ、黒く見えるときもそれはあります。けれどもまるで燃えあがってまっ赤な時もあります」「はてな、お前たちの眼・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・ 一旦、托児所を出て往来を横切ると特別な工場学校の小門があって、十五六歳の少年少女がそこを活溌に出入している。入ったところの広場で一つの組が丁度体操をやっている。十七八人の男女の工場学校の生徒が六列に並んで、一人の生徒の指揮につれて手を・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・みんなが考えたことをみんなが表現する自信さえもったら、社会の進歩のための輿論は活発になります。私たち自身の豊富さもまします。 題もつかないたった数言の考え、それを私たちは大切にしたいと思います。考えるということをむずかしくいかめしくとり・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・をしても、「舌の戦ぎ」をしても、活溌で間に合うので、木村は満足している。舌の戦ぎというのは、ロオマンチック時代のある小説家の云った事で、女中が主人の出た迹で、近所をしゃべり廻るのを謂うのである。 木村は何か読んでしまって、一寸顔を蹙めた・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・初めは本当の事のように活溌な調子で話すがよい。末の方になったら段々小声にならなくてはいけない。 一 町なかの公園に道化方の出て勤める小屋があって、そこに妙な男がいた。名をツァウォツキイと云った。ツァウォツキイはえらい・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・と栖方はまた呟いたが、歩調は一層活溌に戞戞と響いた。並んだ梶は栖方の歩調に染ってリズミカルになりながら、割れているのは群衆だけではないと思った。日本で最も優秀な実験室の中核が割れているのだ。 栖方が待たせてあると云った自動車は、渋谷の広・・・ 横光利一 「微笑」
・・・彼はその触れる物象に対して類まれなほど活発に反応する。そうしてその美を新鮮な味わいにおいてすくい取る。しかも彼は少数の物象にとどまることをしないで、彼を取り巻く無数の物象に、多情と思えるほどな愛情をふり撒く。『地下一尺集』の諸篇はこの多情な・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫