・・・詰る所婦人に主君なしとの立言は、封建流儀より割出しても無稽なりと言うの外なし。此辺は枝葉の議論として姑く擱き、扨婦人が夫に対して之を軽しめ侮る可らずとは至極の事にして婦人の守る可き所なれども、今の男女の間柄に於て弊害の甚しきものを矯正せんと・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・にその風を成し、玉の盃底なきが如しなどの語は、今に至るまで人口に膾炙する所にして、爾後武家の世にあっては、戸外兵馬の事に忙わしくして内を修むるに遑なく、下って徳川の治世に儒教大いに興りたれども、支那の流儀にして内行の正邪は深く咎めざるのみな・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・不遠慮に何にでも手を触れるのが君の流儀で、口から出かかった詞をも遠慮勝に半途で止めるのが僕の生付であった。この二人の目の前にある時一人の女子が現れた。僕の五官は疫病にでも取付かれたように、あの女子のために蹣跚いてただ一つの的を狙っていた。こ・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・いまでも、そういう流儀はのこっている。しかし、それは間違っている。 わたしたちが、ほんとにこの社会でまともに生きようとするとき、現実とその願望との間には忽ち摩擦がおこって、いやでも応でも私たちに、自分のこの社会での立場、属している階級の・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・下士官広瀬は、榕子によって強い精神とされる精神の所有者であり、現実における辻政信その他の人々も、石川達三という作家によってうまれている彼女の流儀によれば、やはり強い精神をもって、日本のこんにちに暗く作用しつつある。「結婚の生態」「生きている・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・あすこは金持の少し才能のある娘を親ぐるみでおだてて、あっちこっちへ留学させ、とどのつまりは学校のスターを作る流儀だから、始めはそれで行って苦労している内に、幾分かそのわくからはみ出たのでしょう。緑郎も三十で相当に色々見聞して、ああいう地味ら・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼女は女らしい自分流儀の直覚で、佇んでいる私の顔を正面から見たら、浅間しい程物慾しげな相貌を尖らせているだろうと思うから。又、黒衣黒帽のストイックは、其処に恐ろしい現代人の没落と地獄的な誘惑とを見たと思うまいものでもない。 彼には、現を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ リオンスの作家観をもってすれば、芸術院へ入ることを正宗白鳥氏がことわったことも、藤村氏が辞退したことも、荷風氏が氏の流儀ではねつけたのも、悉くわけのわからないことになるのである。リオンスによれば「一般に作家というものは、だいいち人間が・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・それでは野木さんのお流儀で。」「己がいらないのだ。野木閣下の事はどうか知らん。」「へえ。」 その後は別当も敢て言わない。 石田は司令部から引掛に、師団長はじめ上官の家に名刺を出す。その頃は都督がおられたので、それへも名刺を出・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・これは十九のとき漢学に全力を傾注するまで、国文をも少しばかり研究した名残で、わざと流儀違いの和歌の真似をして、同窓の揶揄に酬いたのである。 仲平はまだ江戸にいるうちに、二十八で藩主の侍読にせられた。そして翌年藩主が帰国せられるとき、供を・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫