・・・夫婦の間に赤ちゃんを遊ばせてあんなに楽しそうにほほ笑んでいた王女エリザベスは、このニュースが世界に流布されたことを知っているだろうか。あどけなくおさないチャールズの命と、そのすこやかな成長を願わずにいないだろう母の思いと、すべての人類を醜い・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・時にはずいぶんインチキな本を流布させる。 ソヴェト同盟は今こそ人間の歴史がこれまで知らなかった新しい社会の建設の途中にある。農村の新しい生産方法は新しい生活様式と文化を育て、プロレタリアートと農民とは社会主義社会というものについて生々と・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 帝国主義のレンズが集中している上海に入った中共の解放軍が、その行動の実際で日本の新聞にさえ一行のデマゴギーを報道流布することを許さなかった事実は、真によろこばしい、そして敬服すべきことだった。沈毅、純朴な若い中国の人民のまもりてたちを・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ソ同盟での捕虜生活について流布されている暗い噂を、日常生活の事実で明かにしようとしたルポルタージュなどであった。 こうして、わたしたち日本の男女が、人民として忘れることのできない経験を、ふたたび吟味することで、帝国主義というものの本質や・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・河合、三木その他の諸氏によって、誤れる客観主義、あしき客観主義と云われたのは、機械的、反映論風に唯物史観が俗流化されて一般に流布されているため、青年の多くのものは、人類史的規模の中で主体的に自己の人間性の積極性をつかまず、何しろこの世の中で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ものとして会得した上で、今日流布している長篇小説のあれこれの内部にふれて思い到るとき、そこではどんなに屡々所謂事件の運びが文学本来の人間追求としての筋に代えられていたり、問題の説明としてだけ人間が動かされていたりしているかが理解される。読者・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・これらの作家論は、当時の日本の権力が戦争推進のためどんなに現実を歪めた観念を社会のあらゆる面に流布しはじめたかということと、近代市民社会の生活史をもたない日本の文化人が自身の内なる封建性と非社会性によってどんなにその強権に屈伏したか、それら・・・ 宮本百合子 「序(『歌声よ、おこれ』)」
・・・建設的な精神の本来は極めて複雑高度な現実把握と実践との統一を意味するものであろうが、当時らしい概括で流布した建設的精神の解釈は、当面向けられた要求に向って一切の疑問を抱かぬように単純化された生活と精神との所謂真面目さという低度に止まっていた・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ そこには、世界的に流布された『プラウダ』を読むレーニンの写真でなじみの机がある。三つのガラス戸つきの本棚が立っている。皮張椅子が三つ。そして、壁には地図がはられ、もう一つ貼紙がある。「禁煙」。この室に寝台はない。 だが、レーニンが・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 不安の文学提唱、その流布の浅薄な性質については、春山行夫などが、言葉に衣をきせずに批判した。彼は、現在フランスでは左翼的な立場を明らかにしているジイドの発展性を見ずに不安の文学の代表者のようにかついだり、五十三年も前に死んだドストイェ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫