・・・しかし浄海入道になると、浅学短才の悲しさに、俊寛も無気味に思うているのじゃ。して見れば首でも刎ねられる代りに、この島に一人残されるのは、まだ仕合せの内かも知れぬ。――そんな事を思うている間に、いよいよ船出と云う時になった。すると少将の妻にな・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
皆さん。浅学不才な私如き者が、皆さんから一場の講演をせよとの御求めを受けましたのは、実に私の光栄とするところでござります。しかし私は至って無器用な者でありまして、有益でもあり、かつ興味もあるというような、気のきいた事を提出・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・これは、有名の詩句なんだそうだが、誰の詩句やら、浅学の私には、わからぬ。どうせ不埒な、悪文学者の創った詩句にちがいない。ジイドがそれを引用している。ジイドも相当に悪業の深い男のようである。いつまで経っても、なまぐさ坊主だ。ジイドは、その詩句・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・何も別にお話する程の珍らしい事もございませぬが、本当に、いつもいつも似たような話で、皆様もうんざりしたでございましょうから、きょうは一つ、山椒魚という珍動物に就いて、浅学の一端を御披露しましょう。先日私は、素直な書生にさそわれまして井の頭公・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ジッドは『狭き門』を読んだ切りで、純情な青年の恋物語であり、シンセリティの尊さを感じたくらいで、……とにかく、浅学菲才の僕であります。これで失礼申します。私は、とんでもない無礼をいたしました。私の身のほどを、只今、はっと知りました。候文なら・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・おそらく聡明な彼の目には、なお飽き足らない点、補充を要する点がいくらもありはしないかという事は浅学な後輩のわれわれにも想像されない事はない。 自己批評の鋭いこの人自身に不満足と感ぜらるる点があると仮定する。そしてそれらの点までもなんらの・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・西洋人の詩にも漢詩にも、そうした傾向のものがいくらかはあるかもしれないが、浅学な私の知る範囲内では、外国の詩には自我と外界との対立がいつもあまりに明白に立っており、そこから理屈が生まれたり教訓が組み立てられたりする。万葉の短歌や蕉門の俳句に・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・これを日本の物語に書き下さなかったのはこの趣向とわが国の風俗が調和すまいと思うたからである。浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き、描景真相を失する所が多かろう、読者の誨を待つ。 遠き世の物語である。バロンと名乗るもの・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・世間に所謂女学生徒などが、自から浅学寡聞を忘れて、差出がましく口を開いて人に笑わるゝが如きは、我輩の取らざる所なり。一 既に優美を貴ぶと言えば、遊芸は自から女子社会の専有にして、音楽は勿論、茶の湯、挿花、歌、誹諧、書画等の稽古は、家計の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫