・・・ けれども、徳川の封建的権力がくずれかかった幕末に、日本中に横行した悪浪人の暴状と、相互的な暗殺、放火、略奪に疲れていた町人、百姓、即ちおとなしい人民階級は、ともかく全国的に統一した政権の確立したことに安心した。士族の町人、百姓に対する・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・右田は大伴家の浪人で、忠利に知行百石で召し抱えられた。四月二十七日に自宅で切腹した。六十四歳である。松野右京の家隷田原勘兵衛が介錯した。野田は天草の家老野田美濃の倅で、切米取りに召し出された。四月二十六日に源覚寺で切腹した。介錯は恵良半衛門・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・「そうしていると打毀という奴が来やがった。浪人ものというような奴だ。大勢で押し込んで来やがるのだ。親父がぴょこぴょこお辞儀をして、酒樽の鏡を抜いて馳走をしたもんだから、拍子抜がして素直に帰って行きゃあがった。ところが二三日するとまた遣っ・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・彼は素姓のあまりはっきりしない男であるが、応仁の乱のまだ収まらないころであったか、あるいは乱後であったかに、上方から一介の浪人として、今川氏のところへ流れて来ていた。ちょうどそのころに今川氏に内訌が起こり、外からの干渉をも受けそうになってい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫