・・・自分の姿を自慢して男えらみ許りしてとうとう夫もきめないで身をぞんざいにしていろいろの浮名をたてられる。親達は心配していろいろの意見するけれ共一度でも親の云う通りにはならないで「一体何と思って居らっしゃるんだか。此んなに家の富栄えるのも元はと・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・勿論深草を尋ねても鐙はなくって、片鐙の浮名だけが金八の利得になったのである。昔と今とは違うが、今だって信州と名古屋とか、東京と北京とかの間でこの手で謀られたなら、慾気満よくけまんまんの者は一服頂戴せぬとは限るまい。片鎧の金八はちょっとおもし・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・て小春がその歳暮裾曳く弘め、用度をここに仰ぎたてまつれば上げ下げならぬ大吉が二挺三味線つれてその節優遇の意を昭らかにせられたり おしゅんは伝兵衛おさんは茂兵衛小春は俊雄と相場が極まれば望みのごとく浮名は広まり逢うだけが命の四畳半に差向い・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 昔は水戸様から御扶持を頂いていた家柄だとかいう棟梁の忰に思込まれて、浮名を近所に唄われた風呂屋の女の何とやらいうのは、白浪物にでも出て来そうな旧時代の淫婦であった。江戸時代の遺風としてその当時の風呂屋には二階があって白粉を塗った女が入・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・闘技の埒に馬乗り入れてランスロットよ、後れたるランスロットよ、と謳わるるだけならばそれまでの浮名である。去れど後れたるは病のため、後れながらも参りたるはまことの病にあらざる証拠よといわば何と答えん。今幸に知らざる人の盾を借りて、知らざる人の・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫