・・・「裸婦」のほうが美しく感ぜられる。やはり鋭いものの中に柔らかい甘みがある。この絵の味は主として線から来ると思う。この人の固有の線の美しさが発揮されている。「海水着少女」は見るほうでも力こぶがはいる。職業的美術批評家の目で見ると日傘や帽子の赤・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・ 凶作の原因となる気温異常には他にも色々な原因はあるとしても一つの因子としてこれと東北沿海の海水の温度異常との間に若干の相関があるらしいということは、我邦の学者の間ではもう少なくも二十年も前から問題となっていたことである。ただこの問題の・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・この海峡は大洋から瀬戸内海に通ずる入口の中で一番広いから内海に出入りする海水も主にここから出入りするので、潮流もなかなか早く通例一時間三、四海里くらいの速度であります。このような流れが海の底の敷居を越える時には、丁度橋杙などの下流が掘れくぼ・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・そして経文を引用してある中に、海水の鹹苦な理由を説明する阿含経の文句が挙げてある。ところがその説明が現在の科学の与えている海水塩分起原説とある度までよく一致しているから面白い。 また河水が流れ込んでも海が溢れない訳を説明する華厳経の文句・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・これは沖から寄せて来る風のために、海面がさざ波立って空が映らなくなり、そのかわり海水の色が透いて見えるためであります。この黒い所が浜べに近づいて来ると、もうそよそよと涼しい風を感じるようになります。 浜べで見られるおもしろい現象もまだい・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・ 近ごろは海の深さを測定するために高周波の音波を船底から海水中に送り、それが海底で反響するのを利用する事が実行されるようになった。これを研究した学者たちが、どの程度まで上記の問題に立ち入ったか私は知らない。しかしこの鸚鵡石で・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・次には海水自身を区別してその塩分の多少、混濁物や浮遊生物の多少などによっての差を考えねばならない。また海面の静平であるか波立っているかによって如何なる相違があるかという事も考えねばなるまい。これだけの区別をしてもまだ問題は曖昧である。光線が・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ また火山の生因として海水が地下に滲透し、それが噴火山の根を養うという現代でもしばしば繰り返される仮説もまたその端緒をルクレチウスに見いだすことができるのである。 ナイルの洪水の問題についても四箇条のオルターネティヴがあげてある。こ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・蘆荻と松の並木との間には海水が深く侵入していると見えて、漁船の帆が蘆の彼方に動いて行く。かくの如き好景は三、四十年前までは、浅草橋場の岸あたりでも常に能く眺められたものであろう。 わたくしは或日蔵書を整理しながら、露伴先生の『言』中に収・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・ 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海水が飲料水の部分に浸透して来るからだった。だから長い間には、タンクの水は些も減らない代りに、塩水を飲まねばならなくなるんだ。 セイラーが、乗船・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
出典:青空文庫