・・・ 小隊長の面倒を千代はじめ三人の娘たちにたのむことにして一同が千代の乗合馬車に乗り込んだのは、もう夜明に近かった。海沿いの道を馬車は走った。途中、駅から帰って来る芳枝に会い、芳枝も乗った。白崎は誰の真似ともなく赧くなっていた。やがて昭和・・・ 織田作之助 「電報」
・・・豊後の、海沿いに島があったり、入江があったり、実に所謂いい景色にちんまりしていたのが、日向にかかると、風景がずっと放胆で平原的になった。広々した畑、関西風な村を抜けて自動車が青島へ向い駛るにつれ、私は段々愉快で堪らなくなって来た。別府、臼杵・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ 海沿いの公園では夾竹桃が真盛りであった。わきのベンチに白い布で寛やかに頭から体をつつんだペルシア女が、黒い目で凝っと風に光る紅い夾竹桃の花を眺めている。ここも人気すくなく、程経って二十人ばかりのソヴェト水兵が足並そろえてやって来て、同・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫