・・・元気淋漓じゃありませんか。林木なぞの設色も、まさに天造とも称すべきものです。あすこに遠峯が一つ見えましょう。全体の布局があのために、どのくらい活きているかわかりません」 今まで黙っていた廉州先生は、王氏のほうを顧みると、いちいち画の佳所・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・一風変った画を描くのは誰にも知られていたが、極彩色の土佐画や花やかな四条派やあるいは溌墨淋漓たる南宗画でなければ気に入らなかった当時の大多数の美術愛好者には大津絵風の椿岳の泥画は余り喜ばれなかった。椿岳の画を愛好する少数好事家ですらが丁度朝・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・彼が火の如き花の如き大文字は、淋漓たる熱血を仏国四千万の驀頭に注ぎ来れる也。 当時若しゾーラをして黙して己ましめんか、彼れ仏国の軍人は遂に一語を出すなくしてドレフューの再審は永遠に行われ得ざりしや必せり。彼等の恥なく義なく勇なきは、実に・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・が涙のいじらしいをなお暁に間のある俊雄はうるさいと家を駈け出し当分冬吉のもとへ御免候え会社へも欠勤がちなり 絵にかける女を見ていたずらに心を動かすがごとしという遍昭が歌の生れ変り肱を落書きの墨の痕淋漓たる十露盤に突いて湯銭を貸本にかすり・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ ちらほら人が立ちどまって見る、にやにや笑って行くものがある、向うの樫の木の下に乳母さんが小供をつれてロハ台に腰をかけてさっきからしきりに感服して見ている、何を感服しているのか分らない、おおかた流汗淋漓大童となって自転車と奮闘しつつある健・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・慷慨淋漓、筆、剣のごとし。また平日の貧曙覧に非ず。彼がわずかに王政維新の盛典に逢うを得たるはいかばかりうれしかりけむ。慶応四年春、浪華に行幸あるに吾宰相君御供仕たまへる御とも仕まつりに、上月景光主のめされてはるばるのぼりける・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・活詐術、十九世紀の金力と結びつき権力と結びついた新聞人の無良心的な関係、手形交換に際して行われる金融の魔術――アングレークにおけるプティクローがリュシアンに対してとる態度――を描くときバルザックは殆ど淋漓たる筆力を示している。 彼が、関・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
出典:青空文庫