一 書とは何か 書物は他人の労作であり、贈り物である。他人の精神生活の、あるいは物的の研究の報告である。高くは聖書のように、自分の体験した人間のたましいの深部をあまねく人類に宣伝的に感染させようとしたものか・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ゆえにそれは、どんなに馬鹿げていても、難解でも必ず心の深部において万人の共通である。卑怯な成人たちに畢竟不可解なだけである。四 これは田園の新鮮な産物である。われらは田園の風と光の中からつややかな果実や、青い蔬菜といっしょにこれらの・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・ 栖方の本心が眼覚めて来ている。梶はそう思って、「ふむ」と云った。「何ぜでしょうかね。僕はもうちょっと生きていたいのですよ。僕はこのごろ、それで眠れないのです。」 深部の人間が揺れ動いて来ている声である。気附いたなと梶は思った。・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫