・・・……おお、よちよち、と言った工合に、この親馬鹿が、すぐにのろくなって、お飯粒の白い処を――贅沢な奴らで、内のは挽割麦を交ぜるのだがよほど腹がすかないと麦の方へは嘴をつけぬ。此奴ら、大地震の時は弱ったぞ――啄んで、嘴で、仔の口へ、押込み揉込む・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・元来私は談話中に駄洒落を混ぜるのが大嫌いである。私は夏目さんに何十回談話を交換したか知らんが、ただの一度も駄洒落を聞いたことがない。それで夏目さんと話す位い気持の好いことはなかった。夏目さんは大抵一時間の談話中には二回か三回、実に好い上品な・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・映画のほかに余興とあってまね事のような化学的の手品、すなわち無色の液体を交ぜると赤くなったり黄色くなったりするのを懇意な医者に準備してもらった。それはまずいいとしても、明治十年ごろに姉が東京の桜井学校で教わった英語の唱歌と称するものを合唱し・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 調子のごくごくいい日にはいいかげんに交ぜる絵の具の色や調子がおもしろいようにうまくはまって行く。絵の具のほうですっかり合点してよろしくやってくれるのを、自分はただそこまで運んでくっつけてやっているだけのような気がする。こんな時にはかな・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・間に軽い諧謔さえ混ぜる。おどけながら、父は頻りに手巾を出して鼻をかんだ。その度に、やっと笑っている私は、幾度か歔り上げて泣き出しそうに成った。 翌日、御骨は羽二重の布に包まれて戻って来た。それを広間の祭壇に祀り、向い合って坐っているうち・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
出典:青空文庫