・・・いかにも清楚で柔らかな感じを持った画である。『いでゆ』を作者と同じ立場に立って批評すれば、第一に、温泉浴室の柔艶な情趣を生かし得た事において成功である。湯気のためにほの白くなった檜の色も、湯気に包まれてほのかに輝く女の体も、この情趣を画・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・その円い滑らかな肩の美しさ。清楚なしかもふくよかなその胸の神々しさ。清らかな、のびのびした円い腕。肢体を包んで静かに垂直に垂れた衣。そうして柔らかな、無限の慈悲を湛えているようなその顔。――そこにはいのちの美しさが、波の立たない底知れぬ深淵・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・あるとき藤村は、置き物を一つか二つに限った清楚な座敷をながめて、こうきれいに片づいていると、寒々とした感じがしますね、と言ったことがある。 その藤村が自分の家を建てたいと考え始めたのは、たぶん長男の楠雄さんのために郷里で家を買ったころか・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫