・・・一室寂たることしばしなりし、謙三郎はその清秀なる面に鸚鵡を見向きて、太く物案ずる状なりしが、憂うるごとく、危むごとく、はた人に憚ることあるもののごとく、「琵琶。」と一声、鸚鵡を呼べり。琵琶とは蓋し鸚鵡の名ならむ。低く口笛を鳴すとひとしく、・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・ 一風呂の浴みに二人は今日の疲れをいやし、二階の表に立って、別天地の幽邃に対した、温良な青年清秀な佳人、今は決してあわれなかわいそうな二人ではない。 人は身に余裕を覚ゆる時、考えは必ずわれを離れる。「おとよさんちょっとえい景色ね・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
むかし湖南の何とやら郡邑に、魚容という名の貧書生がいた。どういうわけか、昔から書生は貧という事にきまっているようである。この魚容君など、氏育ち共に賤しくなく、眉目清秀、容姿また閑雅の趣きがあって、書を好むこと色を好むが如し・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 高田の作ったこの句も、客人の古風に昂まる感情を締め抑えた清秀な気分があった。梶は佳い日の午後だと喜んだ。出て来た梶の妻も食べ物の無くなった日の詫びを云ってから、胡瓜もみを出した。栖方は、梶の妻と地方の言葉で話すのが、何より慰まる風らし・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫