・・・ 夕飯の仕度にとりかかっていたら、お隣りの奥さんがおいでになって、十二月の清酒の配給券が来ましたけど、隣組九軒で一升券六枚しか無い、どうしましょうという御相談であった。順番ではどうかしらとも思ったが、九軒みんな欲しいという事で、とうとう・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、私はまた金木行の軽便鉄道に乗った。「や、修治。」と私の幼名を呼ぶ者がある。「や、慶四郎。」と私も答えた。 加藤慶四郎君は白衣である。胸に傷痍軍人の徽章をつけている。もうそれだけ・・・ 太宰治 「雀」
・・・「しかし、いいのもありますよ。清酒とすこしも変らないのも、このごろ出来るようになったのです。」「そうか。それがすなわち、地方文化の進歩というものなのかも知れない。」「こんど、先生のところに持って来てもいいですか。先生は、飲んで下・・・ 太宰治 「母」
・・・それより山男、酒屋半之助方へ参り、五合入程の瓢箪を差出し、この中に清酒一斗お入れなされたくと申し候。半之助方小僧、身ぶるえしつつ、酒一斗はとても入り兼ね候と返答致し候処、山男、まずは入れなさるべく候と押して申し候。半之助も顔色青ざめ委細承知・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
出典:青空文庫