・・・それでも気の広い学者は笑って済ますが気の狭い潔癖な学者のうちには、しばしば「新聞的大発見」をするような他の学者に対してはなはだしく反感と軽侮をいだくような現象さえ生じるのである。こうなるとジャーナリズムはむしろ科学の学海の暗礁になりうる心配・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・でいっさいの経過が明らかに頭に浮かむせいか、べつだん改まって相手の名前などは口へ出さないで済ますことが多かったのである。 女は妻の遠縁に当たるものの次女であった。その関係でときどき自分の家に出はいるところからしぜん重吉とも知り合いになっ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・外の女ならこんな時手水にでも起きるのだが、お金は小用の遠い性で、寒い晩でも十二時過ぎに手水に行って寝ると、夜の明けるまで行かずに済ますのである。お金はぼんやりして、広間の真中に吊るしてある電灯を見ていた。女中達は皆好く寐ている様子で、所々で・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫