・・・の濁流の渦巻きとともにあらわれた。その有様のあさましさは今日の想像しにくい毒気をまきちらした。 もとより、一九三一――三年間の、日本におけるプロレタリア文化・芸術運動の方針が、それとしてきりはなして今日研究されたとき、指摘されるべきいく・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・の濁流の渦巻きとともにあらわれた。その有様のあさましさは今日の想像しにくい毒気をまきちらした。 もとより、一九三一――三年間の、日本におけるプロレタリア文化・芸術運動の方針が、それとしてきりはなして今日研究されたとき、指摘されるべきいく・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・不安や恐ろしさや悲しさが私の心の中に渦巻き立つと胸がこわばって息をするにさえ苦しい様になった。 一つところを見つめて私はせわしい息を吐きながら布団の中に埋る様にして居る幼い妹の事を思った。 涙は絶えずまぶたに満ちてそれでも人前を知ら・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・子供に交って遊んだ初から大人になって社交上尊卑種々の集会に出て行くようになった後まで、どんなに感興の湧き立った時も、僕はその渦巻に身を投じて、心から楽んだことがない。僕は人生の活劇の舞台にいたことはあっても、役らしい役をしたことがない。高が・・・ 森鴎外 「百物語」
どこかで計画しているだろうと思うようなこと、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・勤皇と左翼の争いは、日本の中心問題で、触れれば、忽ち物狂わしい渦巻に巻き襲われるからである。それは数学の排中律に似た解決困難な問題だった。栖方は、その中心の渦中に身をひそめて呼吸をして来たのであってみれば、父と母との争いのどちらに想いをめぐ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そして生の渦巻の内から一道の光明を我々に投げ掛ける。 ストリンドベルヒに至っては、その深さと鋭さにおいて――簡素と充実とにおいて近代に比肩し得るものがない。また心理と自然と社会との観察者としても、ロシアの巨人の塁を摩する。彼もまた「人間・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・彼女が空虚なるカアル劇場に歩み入った時には一人として彼女を知る者はなかったが、その夜、全市の声は彼女の名を讃えてヴァイオリンのごとく打ち震い、全市の感覚は激動の後渦巻のごとく混乱した。 やがて彼女はベルリンに現われたが冷静なるハルデン氏・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・その体験は今我々の現在の人格の内に渦巻きあるいは交響している。我々の眼や我々の意欲は、このオーケストラを伴奏としてさらに燃え、さらに躍動しようとする。そうしてこの心は自らを表現しないではやまない。たとえ我々の生命の沸騰が力弱く憐れなものであ・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・彼らの粗暴な無道徳な行為も、因襲の圧迫を恐れない真実の生の冒険心――大胆に生の渦巻に飛び込み、死を賭して生の核実に迫って行く男らしい勇気の発現として私の眼に映った。かくて私は彼らの人格と行為とのすべてに愛着を持ち続けた。 私は私の心を常・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫