・・・また敵の砲塁までまだどれほどあるかて、音響測量をやって見たら、たッた二百五十メートルほかなかった。大小の敵弾は矢ッ張り雨の如く降っとった。その間を平気で進んで来たものがあるやないか? たッた独りやに「沈着にせい、沈着にせい」と云うて命令しと・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・そのあたりで測量の巻尺が光っていた。 川水は荒神橋の下手で簾のようになって落ちている。夏草の茂った中洲の彼方で、浅瀬は輝きながらサラサラ鳴っていた。鶺鴒が飛んでいた。 背を刺すような日表は、蔭となるとさすが秋の冷たさが跼っていた。喬・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・ 青い大麦や、小麦や、裸麦が、村一面にすく/\とのびていた。帰来した燕は、その麦の上を、青葉に腹をすらんばかりに低く飛び交うた。 測量をする技師の一と組は、巻尺と、赤と白のペンキを交互に塗ったボンデンや、測量機等を携えて、その麦畑の・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ 伊能忠敬は、五十歳から当時三十余歳の高橋作左衛門の門にはいって測量の学をおさめ、七十歳をこえて、日本全国の測量地図を完成した。趙州和尚は、六十歳から参禅・修業をはじめ、二十年をへてようやく大悟・徹底し、以後四十年間、衆生を化度した。釈・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 伊能忠敬は五十歳から当時三十余歳の高橋左(衛門の門に入って測量の学を修め、七十歳を超えて、日本全国の測量地図を完成した、趙州和尚は、六十歳から參禅修業を始め、二十年を経て漸く大悟徹底し、爾後四十年間、衆生を化度した、釈尊も八十歳までの・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 私も実は同様、距離の測量に於いては不能者なのである。しかし、恋愛に阿呆感は禁物である。私は、科学者の如く澄まして、「百メートルはあるか。」と言った。「さあ。」「メートルならば、実感があるだろう。百メートルは、半丁だ。」と教・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・その喜びの中には相似三角形に関する測量的認識の歓喜が籠っている。」「物理学の初歩としては、実験的なもの、眼に見えて面白い事の外は授けてはいけない。一回の見事な実験はそれだけでもう頭の蒸餾瓶の中で出来た公式の二十くらいよりはもっと有益な場・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 池の周囲の磁力測量、もっとも伏角だけではあるが、数年来つづけてやって来て、材料はかなりたまっている。地形によって説明されるような偏差がかなり著しく出ていておもしろいから、いつかまとめておきたいと思いながらそのままになっている。池の断面・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・このいたずらを利用したものの例としては三角測量の際に遠方の三角点から光の信号を送るへリオトロープがあり、その他色々な光束が色々の信号に使われるのは周知のことである。自分の子供の時分に屋内の井戸の暗い水底に薬鑵が沈んだのを二枚の鏡を使って日光・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ 山の南側は、太古の大地変の痕跡を示して、山骨を露出し、急峻な姿をしているのであるが、大垣から見れば、それほど突兀たる姿をしていないだろうという事は、たとえば陸地測量部の五万分一の地形図を見ても、判断する事ができる。大垣停車場から、伊吹・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
出典:青空文庫