・・・ 石の左右に、この松並木の中にも、形の丈の最も勝れた松が二株あって、海に寄ったのは亭々として雲を凌ぎ、町へ寄ったは拮蟠して、枝を低く、彼処に湧出づる清水に翳す。…… そこに、青き苔の滑かなる、石囲の掘抜を噴出づる水は、音に聞えて、氷・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・何時此処へ来て、何処から現われたのか少も気がつかなかったので、恰も地の底から湧出たかのように思われ、自分は驚いて能く見ると年輩は三十ばかり、面長の鼻の高い男、背はすらりとしたやさがた、衣装といい品といい、一見して別荘に来て居る人か、それとも・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・お手本から完全に解放せられて二十世紀の自然から堂々と湧出する芸術。それは必ず実現せられる。そうして自分は、その新しい芸術が、世界のどこの国よりも、この日本の国に於いて、最も美事に開花するのだと信じている。君たちと、君たちの後輩が、それを創る・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・と、そぞろごといひけることのありしか、今はこのぬれける袖もたちまちかわきぬべう思はるれば、この新しき井の号を袖干井とつけて濡しこし妹が袖干の井の水の涌出るばかりうれしかりける 家に婢僕なく、最合井遠くして、雪の朝、雨の夕・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 湧出道を奪うためにはあらゆる悪辣なことを平気でやりあった。従って汲出櫓一台当りその頃は二年間で二十五万留ぐらいの成績しか挙げられなかった。現在では一台が二ヵ月で八万留。二年にすれば凡そ九十六万留を掛取するようになったのだそうである。・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫