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・・・すぐ満期になって家へ帰れるのだ! 二人はそんなことばかりを思っていた。シベリアへ来るため、乗船した前夜、敦賀で一泊した。その晩のことを思い出したりした。その港町がなつかしく如何にもかゞやかしく思い出された。何年間、海を見ないことか! 二人は・・・
黒島伝治
「雪のシベリア」
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・・・ この寒さの最中、満期になって帰って来た高橋の家の息子は帰るとすぐ家へ来た。面長の、眼の大きい、すんなりした顔立の男だけれ共、少し気の遠い処が有りそうな口元をして居る。色なんかちっとも白い事はない。額の生際の方が少し顔の下の方よりは白っ・・・
宮本百合子
「農村」