・・・去年、佐渡へ御旅行なされて、その土産話に、佐渡の島影を汽船から望見して、満洲だと思ったそうで、実に滅茶苦茶だ。これでよく、大学なんかへ入学できたものだ。ただ、呆れるばかりである。「西太平洋といえば、日本のほうの側の太平洋でしょう。」・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・六年まえの病気のとき私は、ほうぼうから滅茶苦茶に借銭して、その後すこしずつお返ししても、未だに全部は返却することの出来ない始末なのであるが、そのとき河内さんへも、半狂乱で借銭の手紙を書いたのである。河内さんから御返事が来て、それは結局、借銭・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・ば青雲の志をほのかながら胸に抱いていたのでございますから、たとい半狂乱の譫言にもせよ、悪魔だの色魔だの貞操蹂躙だのという不名誉きわまる事を言われ、それが世間の評判になったら、もうそれだけで自分の将来は滅茶苦茶になるのではあるまいかと思えば、・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・この後の三、四年間の生活は滅茶苦茶で、写真をとってもらうような心の余裕も無かったし、また誰か物好きの人があって、当時の私の姿を撮影しようと企てたとしても、私は絶えずキョトキョト動き廻って一瞬もじっとしていないので、撮影の計画を放棄するより他・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・去来、それにつづけて、 ただどひやうしに長き脇指 見事なものだ。滅茶苦茶だ。去来は、しすましたり、と内心ひとり、ほくほくだろうが、他の人は驚いたろう。まさに奇想天外、暗闇から牛である。仕末に困る。芭蕉も凡兆も、あとをつづけるの・・・ 太宰治 「天狗」
・・・掃除などは、女の局員がする事になっていたのですが、その円貨切り換えの大騒ぎがはじまって以来、私の働き振りに異様なハズミがついて、何でもかでも滅茶苦茶に働きたくなって、きのうよりは今日、きょうよりは明日と物凄い加速度を以て、ほとんど半狂乱みた・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・まるで滅茶苦茶である。いったいこの作品には、この少年工に対するシンパシーが少しも現われていない。つっぱなして、愛情を感ぜしめようという古くからの俗な手法を用いているらしいが、それは失敗である。しかも、最後の一行、昭和二十年十月十六日の事であ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・まるで、滅茶苦茶である。このコリント後書は、神学者たちにとって、最も難解なものとせられている様であるが、私たちには、何だか、一ばんよくわかるような気がする。高揚と卑屈の、あの美しい混乱である。他の本で読んだのだが、パウロは、当時のキリスト党・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・ 何も、わからない。滅茶苦茶に、それこそ七花八裂である。いろんな名前が、なんの聯関もなく、ひょいひょい胸に浮んで、乱れて、泳ぎ、けれども笠井さんには、そのたくさんの名前の実体を一つとして、鮮明に思い出すことができず、いまは、アンドレア・・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・教員などは滅茶苦茶であった。同級生なども滅茶苦茶であった。 非常に好き嫌いのあった人で、滅多に人と交際などはしなかった。僕だけどういうものか交際した。一つは僕の方がええ加減に合わして居ったので、それも苦痛なら止めたのだが、苦痛でもなかっ・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
出典:青空文庫