・・・本当の銀座の鋪道であんな大声であんな媚態を演じるものがあったら狂女としか思われないであろうが、ここは舞台である。こうしないと芝居にならないものらしい。隣席の奥様がその隣席の御主人に「あれはもと築地に居た女優ですよ。うまいわねえ」と賞讃してい・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・南ドイツであったかある地方に毎年キリスト受難劇が行われる習慣があり、その年主役キリストを演じる農民の写真が当時の新聞にのった。世間で偉いと思われている人物とそっくりの顔立ちに生れついているなどという偶然は、ある種の人間にとって、何と皮肉で腹・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・マーシャを演じる俳優は、少い台詞と台詞との間に、内へ内へと拡り燃え活動しているマーシャの魂全体を捕えていなければならない。人間として密度の細かい心の疲れる性質と思われる。 芸術座の人々が、自分達の持って生れた言葉でやってさえ、なかなかう・・・ 宮本百合子 「「三人姉妹」のマーシャ」
・・・ロシアの女優にとって生粋にロシア女であるラネフスカヤを演じることは自然だ。自然に生活の中にあるが儘に演出することがチェホフの劇作の力点であった。――ラネフスカヤは成功した。 ロパーヒンの成功も私は同じ理由だと思う。彼はラネフスカヤと玉突・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ジェーン・オースティンにしても、イギリスの中流家庭で結婚ということについてどんなに打算や滑稽な大騒動を演じるかということを、諷刺的にその「誇りと偏見」の中に書いている。われわれのまわりでも、まだまだ結婚適齢期の娘をもった母親は、時にふれ、折・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 演劇では演じる人間が労働者出身の男女俳優であるばかりでなく、上演脚本の内容自身にいつも労働大衆の日常生活を盛込んでいる。だから、婦人俳優は舞台の上で一番自分に親しみの深い婦人労働者、党の婦人部の活動分子を演じる訳なのだ。 ラジオの・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の芝居・キネマ・ラジオ」
・・・ クリーゲルが行って、七円も八円も切符代のする帝劇かどっかの舞台で古典的なバレーの型を演じることと、二百万の失業者をふくむ日本のプロレタリアートとの間に、どんなつながりがあるであろうか。 メイエルホリド劇場の三晩・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ ネフリュードフに悪態をつくところ、牢獄でウォツカをあおって売笑婦の自棄の姿を示すとき、山口淑子は、体の線も大きくなげ出して、所謂ヴァンパイアの型を演じる。けれども、最後の場面で、政治犯でシベリアに流刑される人々にまじったカチューシャが・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・ 工場内で好きなものだけ集まってやる文芸同人雑誌のグループ=文化活動が、どんなプロレタリア解放運動のための役割を演じるものかということもとりあげられている。だが、ずっと二篇を一貫して読んで感じるのは、徳永直がこの小説で何か新しい試みをし・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫