・・・ただ淡水と潮水とが交錯する平原の大河の水は、冷やかな青に、濁った黄の暖かみを交えて、どことなく人間化された親しさと、人間らしい意味において、ライフライクな、なつかしさがあるように思われる。ことに大川は、赭ちゃけた粘土の多い関東平野を行きつく・・・ 芥川竜之介 「大川の水」
・・・一方ではまた、何事とも知れぬ極度の恐怖に襲われて、氷塊の間の潮水をもぐって泳ぎ回る可憐な子熊もやがて繩の輪に縛られて船につり上げられる。そうして懸命の力で反抗しあばれ回る。「ひどく一同を手こずらせた」と探険隊長の演説の中でも紹介されているが・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・その氷山の流れる北のはての海で、小さな船に乗って、風や凍りつく潮水や、烈ジョバンニは首を垂れて、すっかりふさぎ込んでしまいました。「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・するとすぐ私の足もとから引いて行った潮水はまた巻き返して波になってさっとしぶきをあげながらまた叫びました。「何にするんだ、何にするんだ、貝殻なんぞ何にするんだ。」私はむっとしてしまいました。「あんまり訳がわからないな、ものと云うものはそ・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
出典:青空文庫