・・・そうしてその光の中に、大勢の男女の歓喜する声が、澎湃と天に昇るのを聞いた。「大日おおひるめむち! 大日貴! 大日貴!」「新しい神なぞはおりません。新しい神なぞはおりません。」「あなたに逆うものは亡びます。」「御覧なさい。闇が・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・これが実現した暁には北西の空からあらゆる波長の電磁波の怒濤が澎湃としてわが国土に襲来するであろう。 思想などというものは物質的には夢のようなものである。半世紀たたないうちに消えてしまわなければ変化してしまう。日本には昔からずいぶんいろい・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・五十歳前、徳川三百年の封建社会をただ一簸りに推流して日本を打って一丸とした世界の大潮流は、倦まず息まず澎湃として流れている。それは人類が一にならんとする傾向である。四海同胞の理想を実現せんとする人類の心である。今日の世界はある意味において五・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・風号び雲走り、怒濤澎湃の間に立ちて、動かざること巌の如き日蓮上人の意気は、壮なることは壮であるが、煙波渺茫、風静に波動かざる親鸞上人の胸懐はまた何となく奥床しいではないか。 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・逆にどんな澎湃たる歴史の物語もそこに関与したそれぞれの社会の階層に属す人間の名をぬいて在ることは出来ないという事実の機微からみれば、たとい草莽の一民の生涯からも、案外の歴史の物語が語られ得る筈である。 このことは明瞭に大正初期に見られた・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・並んで流れつつ、それは別な河、という存在ではなくて、澎湃たる日本の新民主主義文学のゆたかにひろい幅と、雄大なその延長とのうちにとけ入り、包括されるはずのものと思う。伸びる芽には必ずきっさきがある。動く車に軸がある。歴史の前進の主軸が、現世紀・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫