・・・そのガロアなる少年天才も、あるいは、素裸で激流を泳ぎまくった事実があるのかも知れない。「ガロアが、四月に、まっぱだかで川を泳いだ、とその本に書いていたかね。」私はお小手をとるつもりで、そう言ってやった。「何を言ってやがる。頭が悪いな・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・―― 「白い激流」 伊東千代子 「細い腕」 鈴木茂樹 これら二篇の中「白い激流」は、結核におかされた人々の発病原因となった生活事情、発病のためにおこって来る愛の破綻、療養の方法を発見するための意志的な努力など、・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・その居眠りは、馬車の上から、かの眼の大きな蠅が押し黙った数段の梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けて真赤に栄えた赤土の断崖を仰ぎ、突然に現れた激流を見下して、そうして、馬車が高い崖路の高低でかたかたときしみ出す音を聞いてもまだ続いた。しかし、・・・ 横光利一 「蠅」
出典:青空文庫