・・・彼らは、たいてい栄養の不足や、過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、さては精神過多等の不自然な原因から誘致した病気のために、その天寿の半ばにも達せずして、紛々として死に失せるのである。ひとり病気のみでない。彼らは、餓・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・努力の生活を為す人々でも、病いなくして死ぬのは極めて尠いのである、況んや多数の権力なき人、富なき人、弱き人、愚かなる人をやである、彼等は大抵栄養の不足や、過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、扨は精神過多等の不自然な・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 地震津波台風のごとき西欧文明諸国の多くの国々にも全然無いとは言われないまでも、頻繁にわが国のように劇甚な災禍を及ぼすことははなはだまれであると言ってもよい。わが国のようにこういう災禍の頻繁であるということは一面から見ればわが国の国民性・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・現にその発現は世の中にどんな形になって、どんなに現れているかと云うことは、この競争劇甚の世に道楽なんどとてんでその存在の権利を承認しないほど家業に励精な人でも少し注意されれば肯定しない訳に行かなくなるでしょう。私は昨晩和歌の浦へ泊りましたが・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・文学常識の急激な落潮、日本文化の低下の激甚さはもっと注目されなければならなかった本年の問題である。 評論のそういう努力の方向にかかわらず、そこにも困難と混迷の時代的な色がある。例えば作家研究を飽く迄文学の中で行おうとする正常な意企をもつ・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・それらはみんなアメリカの旺盛な生産力、激甚な自由競争、充実緊張した実務時間の半面におこる文化的要求の反映である。世界生産の諸部門において、ソヴェト同盟はアメリカに近接しつつあるし、ある部分ではそれを凌駕しつつある。勤労人民の生活条件の安定は・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 急激な社会の推移ということもつまりは人間と人間との意欲の交渉の、複雑激甚迅速な動きである。その意味では昨今の地球の呻きは人間ぽさに咽せるばかりであるわけだが、文学が、人と人とのいきさつとして益々多彩にその姿をつかまず、却って生物的・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・きょうのあらゆる社会の現象は、その間に発展し、複雑化し、爛熟した世界の資本主義がもたらす必然的な諸事情に関係していて、その激甚な矛盾、相剋、その発展の統一の方式が現代の世紀の課題であるということを、一九三三年に、ルネッサンスを叫んだ人々は認・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
・・・戦争の最後の年、空襲がようやく激甚となってくるころに、先生は、病を押して災禍を信州に避けられた。その後東京の町は激しく破壊され、先生が大震災後住みついていられたお宅も、愛蔵された書籍や書画や骨董とともに焼けてしまった。それのみか、戦いの終わ・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫