・・・ おれは余りに愛国の情が激発して頭がぐらついたので、そこの塀に寄り掛かって自ら支えた。「これは、あなた、どうなさいましたのですか。御気分でもお悪いのですか。やあ、ロシアの侯爵閣下ではございませんか。」 おれは身を旋らしてその男を・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・詩のジャンルとして諷刺詩というものがあり得るとか、あり得ないとかいう論議より先に、私共は実際生活の場面で屡々それに対して憤りの感情を激発され、しかもそれなりの言葉では云い現わせないという窮屈な事情に出くわしつづけているのです。一九三六年版の・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・内からもり上がってくる青春の情熱は、それにもかかわらず、ありのままのおのれを露呈するように迫ってくるが、しかしそういう激発があっても、普通の場合ならば傷痕を残さずにすむような出来事が、ここでは冷厳な現実のために、生涯癒えることのない大きい傷・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫