・・・ 黙り返っているお石は、折々不意にはっきり独言しながら、ゴロンと炉辺に臥ころがったりした。 禰宜様宮田も、もう土地も何にも入用なかった。ただどうかして、今のいやな心持から一刻も早く逃れたいばかりなのである。 ほんとにお石の云う通・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・台所の炉辺で、或は家じゅうを荒れている気違い騒ぎから逃げ込んだ屋根裏の祖母さんの小部屋の箱の上で、ゴーリキイが話して貰ったロシアの沢山の伝説、聖者物語、又祖母さんの見て来た様々な生活の物語は、窒息するような生活にはさまれているゴーリキイの心・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・祖父の留守の夜の台所の炉辺の団欒で、或は家じゅうを巻きこむ狂気騒ぎから逃げ込んで屋根裏の祖母さんの部屋の箱の上で、ゴーリキイが話して貰った古代ロシアの沢山の伝説、盗賊や巡礼の物語は、息づまる生活の裡からゴーリキイの心に広い世の中の様々な出来・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫