・・・然しそれは歴代の為政者の中央政府に阿附するような施設によって全く踏みにじられてしまった。而して現在の北海道は、その土地が持つ自然の特色を段々こそぎ取られて、内地の在来の形式と選む所のない生活の維持者たるに終ろうとしつゝあるようだ。あの特異な・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・それを監督して非常に備えるのが地震国日本の為政者の重大な義務の一つでなければならない。それにもかかわらず今日の政治をあずかっている人たちで地震の事などを国の安危と結びつけて問題にする人はないようである。それで市民自身で今から充分の覚悟をきめ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・これはゴシップではあろうがとかくあすの事はかまわぬがちの現代為政者のしそうなことと思われておかしさに涙がこぼれる。それはとにかく、さし当たってそういう土民に鉄筋コンクリートの家を建ててやるわけにも行かないとすれば、なんとかして現在の土角造り・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・で照らされた多数の人の心の目にきわめてはっきり見える主観的生理的影像が、為政者や教育者の目に見えないことがあると、いろいろな重大な騒ぎが起こったりする。昔からの思想争闘弾圧史はみんなそれから来ている。ある時はまたXの方向に振動する偏光を見て・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・教育家為政者は行手の橋の袂の所在を充分に地図の上で研究しておかなければならないと思う。 弁慶が辻斬をしたのは橋の袂である。鍋焼うどんや夜鷹もまたしばしば橋の袂を選んで店を張った。獄門の晒首や迷子のしるべ、御触れの掲示などにもまたしばしば・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・ 昔の為政者の中にはまじめに百年後の事を心配したものもあったようである。そういう時代に、もし地震学が現在の程度ぐらいまで進んでいたとしたらその子孫たる現在のわれわれは地震に対してもう少し安全であったであろう。今の世で百年後の心配をするも・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ ただもし、百年に一回あるかなしの非常の場合に備えるために、特別の大きな施設を平時に用意するという事が、寿命の短い個人や為政者にとって無意味だと云う人があらば、それはまた全く別の問題になる。そしてこれは実に容易ならぬ問題である。この問題・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・仮りに科学的に信憑すべき根拠よりして、来る六十年ないし七十年間に某火山系に活動を予期し得るとせば、個人に対してはともかく、一県一道の為政者にとりては多大の参考となるべし。 予報者と被予報者との意志の疎通せざる手近き原因は、予報の指定する・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・かくして民族の安寧と幸福を保全することが為政者の最も重要な仕事の少なくも一部分であったのである。 この重要な仕事に連関して天文や気象に関する学問の胚芽のようなものが古い昔にすでに現われはじめ、また巫呪占筮の魔術からもいろいろな自然科学の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかし歴史を読んでみると、為政者が君国のために、蒼生のためにその国の行政機関を運転させるには、ただその為政者たるものが誠意誠心で報国の念に燃えているというだけでは充分でないらしく思われる。いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
出典:青空文庫