・・・お金の有る夜は、いくらでも、いくらでも、その女のひとにだまされて、お金を無くする。そうして、女のひとにだまされるということは、よろこばしいものだとつくづく思った。女は、大学生から貰ったお金は一銭もわが身につけず、ほうばいの五人の女中にわけて・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ 学位に関するあらゆる不祥事を無くする唯一の方法は、惜しまず遠慮なく学位を授与することである。一日何人以上はいけないなどという理窟はどこにもない。百人でも千人でも相当なものであれば残らず博士にすればよい。それほど目出度いことはないのであ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・地震計の震動体にメルデ実験に相当する作用のあるのが見逃されているのに気付いて、これを無くする考案をしたりした。また多数の共鳴体を並列して地震動を分析する装置を考案し実際の地震の観測に使用してかなり面白い結果を得た。また構造物の模型実験が従来・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・場合などとちがって軍機の制約から来るいろいろな止み難い事情のために事故の確率が多くなるのは当然かもしれないが、いずれにしても成ろうことならすべての事故の徹底的調査をして真相を明らかにし、そうして後難を無くするという事は新しい飛行機の数を増す・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・この損失は全然無くすることは困難であるとしても半分なり三分の一なりに減少することは決して不可能ではないのである。 火災による国家の損失を軽減してもなるほど直接現金は浮かび上がっては来ない。むしろかえって火災は金の動きの一つの原因とはなり・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ ロマン・ローランは嘗て、人間の幸、不幸の差というものの多くは社会的条件の変化によって無くすることの出来るものであるが、最も後までのこる差別は恐らく健康人と病人との間に在る差別であろうという感想を小説の中で述べていた。それを読んだ時余程・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫