・・・ この動植物の新世代の活動している舞台は、また人間の新世代に対しても無尽蔵な驚異と歓喜の材料を提供した。子供らはよくこれらの小さな虫をつかまえて白粉のあきびんへ入れたりした。なんのためにそんな事をして小さな生物を苦しめるかというような事・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・の過去帳 少年時代に昆虫標本の採集をしたことがある。夏休みは標本採集の書きいれ時なので、毎日捕虫網を肩にして旧城跡の公園に出かけたものである。南国の炎天に蒸された樹林は「小さなうごめく生命」の無尽蔵であった。人のはいらないような茂み・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・は何を見てもただほんの上面を見るというまでで、何一つ確かな知識を得るでもなく、物事を味わって見るでもない。これはまず心の明き盲とでも言わなければならない。よく「自然」は無尽蔵だと言いますがこれはあながち品物がたくさんにあるというだけの意味で・・・ 寺田寅彦 「夏の小半日」
・・・黒雲に足が生えて、青草を踏み分けるような勢いで無尽蔵に鼻を鳴らしてくる。 庄太郎は必死の勇をふるって、豚の鼻頭を七日六晩叩いた。けれども、とうとう精根が尽きて、手が蒟蒻のように弱って、しまいに豚に舐められてしまった。そうして絶壁の上へ倒・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・カールは子供たちが小さかった時、こういう散歩の道みちに無尽蔵の即興お伽噺をきかせてやった。一人の娘をカールが肩車にのせ、もう一人の娘をW・リープクネヒトが肩車にのせ、息の切れるほど駈けっこをする「騎兵遊び」はマルクス家専売の大人と子供の遊び・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・諸国を侵略したナチス軍が、占領地の愛国者たちをどう扱ったかということについては、世界がなまなましい無尽蔵の実証をもっている。ウクライナ一地方での状況を、ガルバートフの「降伏なき民」という小説によって私たちは想像することが出来た。これらの諸国・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・藤村が、芸術の源泉・秘密の源が「広大で無尽蔵な自然の間にあることは云うまでもない」と「春を待ちつゝ」の中で云っているのは、決して一朝一夕の思いつきではないのである。 藤村の『若菜集』引きつづいて翌三十一年の春出版された『一葉舟』『夏草』・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・及び「彼の想像力は無尽蔵に次から次へとその手段を思いつかせた」やり方で押しよせる高利貸を宥め、債権者を納得させ、勘定書をもって来た出入りの商人から却って金を借りる等という困難きわまる芸当。更に出版権にからまる絶え間ない訴訟事件があり、代議士・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫