・・・先生夫婦と、Kさん夫婦と、Fさん夫婦、無理矢理つれて、浅虫へ行こうか、われは軍師さ、途中の山々の景色眺めて、おれは、なんにも要らない。 乃公いでずんば、蒼生をいかんせむ、さ。三十八度の熱を、きみ、たのむ、あざむけ。プウシュキンは三十六で・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・あちら、こちらを見渡し、むかしの商売仲間が若い芸妓などを連れて現れると、たちまち大声で呼び掛け、放すものでない。無理矢理、自分のボックスに坐らせて、ゆるゆると厭味を言い出す。これが、怺えられぬ楽しみである。家へ帰る時には、必ず、誰かに僅かな・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・――起きて縄でもないてぇ、草履でもつくりてぇ、――そう思っても、孝行な息子達夫婦は無理矢理に、善ニョムさんを寝床に追い込み、自分達の蒲団までもってきて、着かせて、子供でもあやすように云った。「ナアとっさん、麦がとれたら山の湯につれてって・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・壁土を溶し込んだように見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理に動いているかと思わるる。帆懸舟が一隻塔の下を行く。風なき河に帆をあやつるのだから不規則な三角形の白き翼がいつまでも同じ所に停っているようである。伝馬の大きいのが二艘上っ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ これと同じような意味で、今申し上げた権力というものを吟味してみると、権力とは先刻お話した自分の個性を他人の頭の上に無理矢理に圧しつける道具なのです。道具だと断然云い切ってわるければ、そんな道具に使い得る利器なのです。 権力に次ぐも・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫