・・・秋とともに在って、私は無私を感ずる。人と人との煩瑣な関係に於ても、彼我を越えた心と心との有様を眺める。心が宇宙を浸す。深い、広大な、叡智に達する程のポイズを味い得ることは稀でない。故に、古人は「ものゝあはれ」と、いう言葉を、秋に感じたのでは・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・批判の精神の役割は重大になって来るばかりなのである。批判の精神の無私な努力だけが、世紀の諸相の示している歴史の制約と各自が属している社会層の限界との間にある相互的な矛盾や対立を自身のものとして作家に自省せしめるものであるし、文学作品そのもの・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・すなわちLという頭字をもった三人の人たちは個人的な権勢の欲望に害されることのなかった無私な人たちだった。革命的指導者の最大の徳義は、世界とその国の客観的情勢を自分がそれを好都合と感じるか、感じないかということにかかわらず、革命の課題にそって・・・ 宮本百合子 「三つの愛のしるし」
・・・そうしてこの心がけがやがて人生全体に対して公平無私であろうとする先生の努力となって現われた。五 先生が偏屈な奇行家として世間から認められているのは、右のような努力の結果である。ひいき眼なしに正直に言って、先生ほど常識に富んだ・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫