・・・しかし、母親が放縦であり、無自覚である家の子供は、叱っても恐れというものを感じない。そして悪いという事に就いて根本的に無自覚である。唯世の中は胡魔化して行けば可いというような事しか考えていない。この一事を見ても、子供心に信仰を有たしめるもの・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・しかるに、指導的立場にあるものゝ無自覚と産業機関の合理化は、新興文学の出現とその発達を拒んでいます。 しかし、このことも、幾千万児童の精神文化の問題であり、次代の新社会建設を約束するものなるが故に、解放の暁が迫っています。ひとり搾取の対・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ このことは、女の自覚とも見らるれば、また、一面から観察して、無自覚とも見られたのである。女は、永久に、男の奴隷たるに甘んぜずとする点は、たしかに、女の自覚を意味し、反抗をも意味したけれど、家出した女はどうなったか? やはり、同じような・・・ 小川未明 「婦人の過去と将来の予期」
・・・そういう点について全然無自覚な君を、僕もまさか憎む気にはなれないが、しかし気の毒に思わずにいられないのだよ。そして単衣を買ったとか、斬髪したとか……いったい君はどんな気持でこの大事な一日一日を過しているのか僕にはさっぱり解らない」 こう・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・すべてが無自覚からきている。誰も自分の生活を見廻してみるものがないからだ、と思った。惨めだが、しかしあの女たちはちっとも自分のその惨めなことを知っていないのだ。これは恐ろしいことだと思った。彼は何度も雪やぶの中に足をふみ入れた。しかし、同時・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・意識の深い奥のほうからこれが出よう出ようとするのを、不思議な、ほとんど無自覚な意志の力で無理に押えていたのだというような気がした。 なぜ「フリージア」という名が突然に現われたか。それには積極的と消極的と二つの理由があった。第一前に言った・・・ 寺田寅彦 「球根」
私は今の世の人間が自覚的あるいはむしろ多くは無自覚的に感ずるいろいろの不幸や不安の原因のかなり大きな部分が、「新聞」というものの存在と直接関係をもっているように思う。あるいは新聞の存在を余儀なくし、新聞の内容を供給している・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・たとえ音楽会の帰りに電車の中でけんかをし、宅へ帰って家族をしかったりする事があるとしても、その日の音楽から受けた無自覚な影響が、後に思いもかけない機会に、ある積極的な効果として現われる場合がかなり多いのではあるまいか。これは自分にとってはか・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 現在では女性の――生活の様式がどうしても単調で変化に乏しいと云う点、自分が女性としての性的生活を完全に営んでいなかった事又は、女性の一人として同性の裡に入っていると、自分達の特性に対して馴れ切って無自覚に成りがちであると一緒に、却って欠・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ ――馬鹿って云うより、無自覚だ。だって、もうあの職場じゃ九十五パーセント突撃隊じゃないか! ソヴェトのプロレタリアートは雨傘なんてなしで「十月」をやりとげた。一九三〇年、モスクワの群集中にある一本の女持雨傘は、或る時コーチクの外套・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
出典:青空文庫